歯の豆知識2021.10.29
横江教授の講義から 「外科処置の後に腫れるとはどういう事か?」
10/20に防衛医科大学 口腔外科の横江教授に診療に来ていただきました。
診療が終わった後に常勤ドクターに
「創傷治癒から考える手術操作の基本」
という題名で、講義をして頂きました。
生体が傷が負った場合、どういう仕組みで治癒をするかを基礎から見直した上で、どのように治癒を考慮した切開線に入れ、剥離をすべきかをお話し頂きました。
その後に実際の当院の症例を元にケースディスカッションを行って頂きました。
歯科の治療の中でも患者さんにとって抜歯や手術というのは最も避けたい、やって欲しくない治療だと思います。
そして誰でも腫れたり傷んだりするのは嫌なものです。
なるべき腫れない様にして欲しいのは当然の事ですが、講義の中で横江教授が仰っていた内容は以下の様なことでした。
医療とは生体が本来持っている
①再生修復能力
②防御機構
③適応能力
を最大限に引き出せる環境を提供する事です。
創傷の治癒過程には
①凝固止血期
②炎症期
③増殖期
④組織再構築期
⑤成熟期
に分かれて、この中で最も重要なのは「炎症期」になります。
炎症期は凝固に関与する血小板からPAF(platelet activating factor)が放出され、多核白血球やマクロファージ、肥満細胞を凝固局所に集結させます。
炎症性サイトカインやヒスタミンが過剰放出される為、血管拡張や血管透過性亢進が生じます。
これにより血管外へ漏出したフィブリノーゲンがトロンビン、Ca2+、第8因子などによってフィブリン網を形成します。
受傷後数時間以内に多型核白血球が血管から創に遊走し始め徐々にその数を増やしながら創に混入した細菌や異物の除去を開始します。
フィブリンは48時間、つまり2日間で安定をするので、血餅が流れてしまったり細菌が混入するのは傷が出来てから2日間が重要になります。
抜歯や手術後の2日間は感染から守ったり、傷を安静に保つことです。
その後、増殖期を迎え、治癒に向かう訳ですがその為には炎症期が早期かつ十分に起こり速やかに完結させる事です。
と、いうことは術後2〜3日に腫れるのは治癒のスイッチが入っている証明とも言えます。
横江教授のメッセージは
「腫れるということをあまりネガティブにとらえないで欲しい」ということでした。
余計な損傷を体に与えない様に気をつけて手術に入るのは当然の事ですが、術後に腫れるということは、人が治ろうとしている正常な反応であり、治癒過程においてそれはとても重要なことだとしっかり患者さんに伝えてほしいという事でした。
当院の歯科医師には日常の診療を見直す良いきっかけとなりました。
横江教授には次回、診療にきて頂いた後、抗菌薬の使い方について講義をして頂く予定になっております。
診療だけでなく学びの機会を頂けることがありがたいです。