歯の豆知識2022.01.10
抜髄(神経を取る処置)で人は死にます
1/4に急患の患者さんがいらっしゃいました。
28日に他院を「歯がしみる」ということで受診をしました。
レントゲンを撮ってみると虫歯があって、大きいので歯の神経(歯髄)を取る処置をしなくてはならないという説明を受け、抜髄をしました。
その2〜3日後から腫れてきたので1/2に急患で受診をし、口が開かない中、担当された先生は仮封を取る処置をsh、抗菌薬の投薬をしてくれました。
しかし、顔の腫れは輪をかけて酷くなり、4日に当院にいらっしゃいました。
口が開かないので、顔貌写真、パノラマX線写真を撮影して病変は見られなかったので、とりあえず「はらこどもクリニック」に点滴で抗菌薬投与を行なってもらう様に送りました。
翌日、朝にも点滴を行う為にお呼びしたのですが、改善傾向が見られずCRP28という数値でかなり強い炎症を示していたので、御自宅のお近くの病院に入院依頼をしたところ、数字があまりに悪いので責任を取れないと拒否をされました。
防衛医科大学の口腔外科に問い合わせ、受けてくださりました。
1/7が横江教授がいらっしゃる日で、その際、
「受けて頂きありがとうございました。その後はどうですか?」
と聞いてみると、
「命は助かりました。あと3日で死んでいました。ベッドが開かなかったけれど命の危機ということで待っていられなかったので夜中の2時に入院させていただき、ドレナージと気管切開を行いました。」
とのことでした。
口腔外科医局のカンファレンスでも「何故、病変もないのにあんなに腫れたのか?」というのは話題になったそうです。
抜髄をするとき、大学生はラバーダム防湿をしてから行う様に習います。
アメリカの歯内療法専門医はラバーダムが出来なければ治療はしないとも聞きます。
当院では
①歯質が少なく、前歯の仮歯の取り外しをする場合
②zoo(ゴムのチューブで歯を挟んで唾液を吸い取る器材)を使用した方が良い場合
③気持ち悪い、怖い、などどうしても患者さんが受け入れられない場合
以外は必ずラバーダム防湿下で歯内治療を行います。
ラバーダムを使えば絶対に大丈夫、ということではありません。
しかし、歯髄を取った後の根管内は象牙質が死んでいる組織なので免疫が働きません。
ですので、出来るだけ口腔内細菌を根管内に流入させない事が大事なのです。
それと共に、今回行われた仮封(仮のふた)を外したままにする、「オープン」と呼ばれる処置も以前は歯内圧を下げたり、嫌気性菌を空気に触れさせる為に行われていましたが、これも現在では細菌の感染経路をそのままにするのは否定されています。
今回のような事が起きたのは、この「当然」と思われる処置がされていない事、むしろ最後の蓋を外し放しにしてしまった事が最悪の事態を招いた原因でした。
病変もなく、抜髄で人が死にかけたのを見たのは、初めての経験でした。
診察をした先生方は良かれと思ってやっています。
ただ、今回のことはラバーダムを使う、オープンにはしないということを行っていれば防げた可能性もあり、残念ながら知識不足、注意不足であったことは否めません。
当院でも良かれと思った治療の結果、必ず良い結果に結びつくとは限りません。
患者さんとトラブルになった事もあります。全力で良い事をしようとしても良い結果にならないかもしれない。だからこそ卒後の勉強は必要です。治療の際には資料を残して、患者さんに説明を十分に行い、院内カンファレンスを行い、それぞれの歯科医師が妥当性がある医療を行っているか、歯科医師同士で確認をしています。
医療は怖い仕事です。
今回も歯髄処置で人が死にそうになる場を目の当たりにして、改めて歯科医療に携わるということの怖さを感じました。