その他2021.06.07
歯科専門雑誌を見て思うこと
歯科専門雑誌というのが何種類かありまして、それには色んな先生の症例や発表が掲載されています。
虫歯治療
根管治療
歯周病治療
審美治療
インプラント治療
インプラントにまつわる骨造成
外傷歯の治療
経営のこと
人事、教育のこと
など多岐にわたります。
若い頃はその雑誌を読み、「すごいな」「こんな治療が出来る様になりたいな」と思って読んでいました。
そう思い、発表される数々の症例を見ては後ろの方に掲載されている宣伝広告の中から選んだセミナーに多額のお金を払って参加し、目にしている治療を自分が現場で具現化出来る様に、自分の時間と費用と労力を投資し続けた時期があります。
参加してみて自分の歯科医師人生を変える程役に立ったセミナーもあれば、科学的根拠に乏しく役に立たなかったものもあります。
当時はどのセミナーが自分の臨床の役に立つのかジャッジをする能力が無かった為、先輩、友人、知人に「良いよ」と言われるものであったり、憧れた治療をしている先生の講師をしているものを片っ端から申し込んで受講しました。
その先に輝ける未来があると信じて。
学会に入会していれば機関紙というものが送られてきますが、開業医、勤務医の多くが読む雑誌は一冊に色々掲載されている商業誌です。
商業雑誌である以上、掲載する内容は、読者である歯科医師に対して、何を発信すると売れるのかを当然雑誌編集担当者の人は考える訳で、そこには現在のトレンドや、雑誌上に広告を出す会社が何を売りたいかを垣間見る事ができます。
売りたい商品は材料であったり、機械であったり、セミナーであったり・・・ページの半分近くは広告です。
これは医科の世界とは大きく違っているところで、歯科は高額なセミナーが多数ありますが医科はあまりありません。
例えば歯を残す為の歯周再生治療、インプラント、マイクロスコープを用いた自費根管治療、手間をかけた補綴治療、などはセミナー費用が高額になる傾向にあります。
そして、その治療は患者さんにも高額になります。
逆に言えば、高額なセミナー費用を払っても、その技術を習得すれば患者さんから多額のお金を頂けて稼げるから、歯科医師は投資に踏み切る訳です。
開業して14年、お金使って時間使って経験積んで、当時憧れた治療がある程度は自分のクリニックで出来る様になったと思っています。
その中でも頻繁に使う技術と、滅多に使わない技術があります。
雑誌で取り上げられるのは実は滅多に使わない技術の方です。(自費専門、審美専門、インプラント専門、矯正専門などの歯科医院は別で、ここでは一般的な歯科治療を行う医院の話)
よく使う技術は「出来て当たり前」だからです。雑誌に当たり前のことを掲載してもウケない。
歯科医師がお金を払って得たいのは自分が今持っていなかったり、新しい技術や知識だから。
そしてお金と手間をかけて滅多に使わない技術の
使う頻度は?成功率は?予後は?
実際、やってみると期待していた程の予後を得られない事も多い事を身を持って知ります。
以前、岡賢ニ先生に言われた事があります。
「君がそんな事をしている間に医院はどんどん劣化している」
と。
当時はわからなかったこの言葉の意味を今は実感して、日々噛み締めています。
やはり難症例って予後も成功率も良くないんですよ。何をやるとしても。
だから、普段使用頻度の高くない頻度の治療をいくら頑張っても、実は患者さん全体に対しての貢献度は上がらなかったりするんです。勉強することやそういった技術を否定するのではありません。しかし、現実的には魔法の杖はない。
だから負けるかもしれない勝負をしないことは日々の診療でとても重要だと思います。
知識も経験もない頃は、それに気が付かなかった。
若い先生や経験の浅い先生でやる気のある人こそ、頑張るポイントを間違えてしまう様に思います。
商業誌が悪いものだったり後ろの方に掲載されているセミナーで勉強することが良くないとか意味がないなんて言っている訳ではありません。治療の選択肢を広げる努力は絶対に必要ですし、新しい機器やシステムは難しい事を簡単にしてくれる事もあります。
CADCAMなどのテクノロジーやニッケルチタンファイルなどの進歩は当たり前の治療をより簡単にしてくれています。
金属の値段はコロナによる金融緩和や生産力の低下により高騰してきました。どれだけのスピードで進むかは分かりませんがこれからは日本はいわゆる「銀歯」から脱却していくことになるでしょう。それは限りある資源に対して保険診療もいずれは適応しなければ赤字を被る歯科医師も保険診療の負担が大きくなる国も困るからです。
実は昔も今も治療の本質は実はそんなに変わっていないと思います。
よく医療の発展は目覚ましい、と言いますが歯科臨床において20年身を置いていますが僕はそうは感じていません。
医科の世界では今までは死んでいるレベルのガンが治ったり、エイズが死ぬ病気ではなくなったというドラスティックな革命がありましたが、歯科では生活習慣病の側面が大きいので糖尿病や高血圧の治療と同様にお金をかけたらリセット出来るものではないからです。
歯科界はむしろ以前より治療による侵襲を避ける傾向になっていると感じています。
だから歯科医師は対処方法のやり方より「何故、病気になるのか?」ということに対してもっと意識を払うべきだし、それを患者さんに理解してもらう為に出来ることを考える等、雑誌に掲載されてもウケの悪い地味な事の重要性を強く感じます。
歳をとった今、雑誌をみると、以前の自分がそうであった様に本当に大切な事を本質を見る力がないと勘違いするだろうと感じてしまうのです。
インターネットが普及した今、飛び込みで歯科医院を決める患者さんは少なく、ホームページや自分が受けたい治療に関する情報を御自身で調べる患者さんがほとんどだと思います。
情報が溢れている今だからこそ、その中で何が真実かを見極める「目」はとても重要です。見誤れば間違った方向に突っ走ってしまう人も出る。それは治療を受ける患者さんにも治療を行う歯科医師にしても不幸なことです。
雑誌を見ながら、そんな事を考えてしまいました。きっとー歳をとったんだな。