医院ブログと歯の豆知識

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その他2021.07.11

47歳になって思うこと

47歳になりました。
歯科医師になり21年が経ちました。
開業して14年経ちました。

歯科医師や経営者としての経験値が上がり、身につけたスキルの蓄積はあります。
昨年に比べて歯科医師として劣っていると感じた年はありません。年々、進歩してきていると思います。
でも、気力や体力はきっと緩やかに坂を降り始めています。
若いときと同じやり方では良い結果を出すことは出来ないと思っています。
だからこそ「やること、やらないこと」の区別をしていく必要があります。
歯科でドラスティックに治療成績が変わる発明はデジタルにまつわるものでしょう。
実は新しいテクニックとか理論で歯科医療の成績が決定的に違う事はあまり出ない傾向にあり、むしろコンサバティブに「なるべくいじりすぎない」方向に向いているように感じます。ですので、医学、科学を学ぶ事は大事ではありますが、僕にとってこれからは「人間」を学ぶこと。これは「こころ、行動」の方です。そして組織としてのシステムの構築とアップデートがより重要だと思っています。

歯科医師になったときも開業したときも、歯科医師はある程度臨床経験を積んだら開業する事が一般的でした。
そして院長は治療をする事が主たる仕事でした。当然、僕も例に漏れずそうしました。
先輩歯科医師達は良い車に乗って、ブランド物を持っていてとても羽振りがよく見えました。
世間一般の歯医者は金持っているという印象を僕も先輩方に持っていましたし、今は貧乏だけどいずれ自分もそうなると思っていました。
しかし、開業してみたら全然患者さんも来ないし、多額の借金を抱えているのにお金も稼げない。

競合ひしめく数ある歯科医院の院長として生き残っていくには、他の医院より良い医療を提供するにも、また、多くの患者さんに来てもらえる様になるにもとにかく自分の医療技術を上げる事だと信じて稼いだお金を2000万円以上の費用と、人生の時間の多くをささげてきました。

今、思えば開院した最初から上手くいかなかった事は最高にラッキーでした。悔しくて、焦って何とかしなければ自分の人生は終わると思ったから2000万円というお金や自分の時間を投資するに至ったからです。
もしさほど努力しなくてもうまくいっていたり、お金が入ってきたりしていたら、今まで見てきた先輩方の様に使ってしまっていたと思います。普通の人間の僕が普通に過ごしたら普通の結果しか出なかったと思います。

そうする中で知識、技術、設備が充実していくと気がつけば自分の2本の腕では足りなくなり、人を雇用して、教育することがより重要になっていきました。
人数が増えた組織において、医療の質を上げていくにはスタッフと患者さんのことを知り、スタッフと患者さんが良いパフォーマンスを出せる場にする事が最重要課題です。
それがある一定以上の歯科医療を提供する事において良い結果を生むからです。
何故患者さんが良いパフォーマンスを発揮するの?歯科医療従事者の仕事じゃないの?と思われるかもしれませんが、歯科医院におんぶに抱っこで「全てお任せします」という患者さんはあまり良い医療に対する結果を生みません。
歯が無くなる2大疾患である虫歯と歯周病は生活習慣病であり、患者さんの行動変容は未来の結果を決めます。
歯科医師や衛生士がどれだけの技術を身につけても限界があり、既存の歯科医療技術だけでは戦えないからです。

勤務医時代にそんな事を考える事はありませんでしたし、院長の思考や行動、開院その後の成長の仕方を教えてくれる院長に雇用してもらった事もありませんでした。

これまでの歩みの中で一般的より少し大きな規模の医院になったので、その責任者としては勤務医の時には習わないまた別の学びをしなくては立ち行かなくなりました。
必要だったのはマネージメントです。教育と組織運営です。
教えるのも、組織運営をするのも歯科医療とは全く異なるスキルが必要ですが、その手法は大学でも技術系セミナーでも教えません。
今は勤務医の先生がキャリアを築く上で、未来を見据えたことを指導しています。決して歯科医師一人院長の医院を作らない様に言っています。誰でも万能ではなく、得意不得意があるからだというのと、術者1人の医院経営は経営者にとっても患者さんにとってもリスクが大きいからです。当院では非常勤で矯正の専門医、口腔外科の専門医が担当する日を作り、また、勤務医歯科医師の中でも全員が出来るべき一般的な治療は割り振り、各々の得意分野によって症例の担当医を変えています。

厚生労働省は「かかりつけ強化型診療所」というシステムを作りました。これは今後、歯科医師を複数人在籍しており、一定設備と訪問診療への対応が可能な歯科医院を保険制度上でも優遇するものです。
人口も減り、保険制度上も歯科医師一人の個人医院が生き残るのが難しい未来は歯科医師の皆が開業を選ぶ時代ではなくなります。当然、勤務医で人生を全うするケースも増えてきます。
ある一定規模の医院において、ただ歯科医療だけしか出来ない歯科医師は管理者、責任者としては組織の中でも不十分です。採用、教育、医院全体としての医療サービスの質の管理、さらなる向上を考え行動する事が必須になります。
つまりは決定している未来として人間としては「雇われる」側から「雇う」側になることも最初に教えます。
医療技術、知識だけではなく、開業を視野に入れる歯科医師には歯科医師の指導方法も教えます。

と、書いてみると僕の日常の思考や行動が次の世代へのバトンタッチを意識しているのは間違いない様です。

医療業界は世襲、踏襲が多いです。自分の実家は小児科医で弟がそちらを継承し僕と妹は同じ医療法人で歯科医院を作ったので、医療法人の世襲でした。
僕には子供が2人いますが現在のところ、子供には「継がせる」気はありません。
親のしている職業と本人の心の中にある情熱を燃やせるものが一致するとは限らない。親の仕事や価値観を子供の未来に引き継がせるつもりはありません。
時代と共に価値観は変わります。親の時代の価値観は時代遅れになるかもしれません。
人生で成功出来るのは、情熱を傾ける方向性を見つけることが出来るか、そして情熱の対象に対してどれだけ捧げることが出来るかだと思っています。
勿論、運や適性もあります。しかし元々不得意な事や情熱をかけられないものが後に得意になることは稀です。

それぞれの人にとって情熱を注げるものが何かは自由に見つける環境である方が良い結果を生みやすいはずです。それが家庭でも職場でも。
僕は息子も娘も勤務医もスタッフも自分の得意な事をやる時間が長い多い人生を送って欲しいと思っています。

はらデンタルクリニックは僕の思いやそれが真理だと信じるコンセプトで作った歯科医院であり、思いを共有出来る仲間を作らねば僕の衰えと共に医院も衰退していく事になるでしょう。
自分の思いだけで動かす医院から、働く人の意思、患者さんのニーズ、時代、に沿った形に変えていくべきなのかもしれません。

そして肝心の僕自身は・・・・これからの人生はどうなっていくのでしょう?
人に偉そうに教育ばかりしておきながら実は自分の10年後の未来の希望が明確に定まっているわけではないのが正直なところです。

現時点で得意だったり正しいと思える医療の実践はしているし、今の医院を一生懸命作ってはみて必死に運営をしているものの、47歳の今の自分の立ち位置を自分で評価するならば、まだまだ年齢の割に力不足であり、なりたい自分に対して期待以下だと感じています。

もし明日、死んだとしてもそれなりに一生懸命やってきたので後悔は無いけれど、自分の持っているパフォーマンスを十分に発揮できたか。やり切ったか、と問われれば全くそうではないです。

上手くいっている経営者の人ってもっと楽しんで仕事をしている人が多いんですね。
で、継続的に成功後も仕事を続けられる。

それが出来れば一番良いのですが。

かたや

ボクシングの世界チャンピオンの鬼塚勝也、村田諒太は
「世界チャンピオンになれば夢が叶い、人間として完成し、全てが満たされると思っていたら、ベルトを獲っても昨日と変わらない弱い自信のない自分がいて、満たされる為に証明する為に戦う事に終わりがなかった」
という趣旨のことを言っています。

チャンピオンベルトを得る代償に苦しい思いがあり、決して長期に継続できる苦しみではない短期集中型の目標設定だからこその感想だと思います。

歴代の世界チャンピオンと自分を比較するのはおこがましいのですが、自分の歯科医師としての実感はこちらに近いです。
それはプレイヤー(術者)としての意識が強く、経営者として思考は希薄だったからだと思います。

1人歯科医師としての21年の結果にはそんなに後悔が無いのですが、1人の大人、1人の経営者としての14年を考えると自分に対して「このままでいいの?人生終わっちゃうよ」と焦りに近いものを感じています。

47歳 若くはない歳になりました。プレイヤーとしての全盛期はいつまでなのか、目も手も動き、同じクオリティの仕事が出来るのかは分かりません。

でも、今はまだ体は動くし、落ち着くには早すぎる。だからこそプレイヤーとして衰えても医院の提供する医療やサービスの質は衰えない準備をしなくてはならないと感じています。

年齢を経て目線を変えながらも情熱を感じるものに対していつ死んでも後悔しない行動をし続けていきたいと思います。

いつまでも 何歳になっても

ハングリーであれ 愚か者であれ